YoReBanGa

緑色の憂鬱

(1)

『JB STOMP』の収録を終え、俺は幼稚園内の控え室の椅子に腰を下ろした。
「はぁ・・・」
自然と溜め息が出てしまう。 スタジオ収録とロケ収録を繰り返す日々。 肉体的にも精神的にもつらい。 最近はオフの日でも、家に篭って今後の人生設計について考え込むことが多くなった。

振り返れば、NHKで英語番組のキャラクターに就任してもう3年になる。 初めのうちは、俺もジャジャ丸やゴン太のような人気キャラクターになってやると意気込んでいた。
しかし現状はこの有様だ。 ディレクターによって植え付けられた設定は、たびたび問題を引き起こすトラブルメーカー。 本当の俺はこんな駄目キャラじゃないのに。 これでは人気も上がるはずが無い。

冬の収録は寒くて体が持たない。 持参したホット梅昆布茶入りの水筒を開け、飲む。
テレビをつけると、ストレッチマンが子供たちと一緒にストレッチをしている。 相変わらず凄い人気だ。 彼も俺も、子供たちにストレッチを広める身。 やってることはたいして変わらないのに、この人気の差は何なんだ。 外見? いや、ルックスでは俺のほうが良いに決まってる。
そんなことを考えているうちに、冷えきった体が徐々に温まってきた。 今日は収録終わったらとっとと帰ろう。 帰りに王将で餃子でも買っていこうかな。

「JBさん!さっきのSTOMP、園児のノリがいまいちだったのでもう一回お願いします!」
不意に部屋の外から聞こえるスタッフの声。
「はぁ・・・」
もう一度深い溜め息をつくと、俺は重い腰を上げ、再び外へ出る。 園児たちの視線が冷たい。

「れーっつ・どぅー・ざ・じぇいびー・すたーんぷっ!!!!!!!」
威勢の良い声が寒空にこだまする。 母さんが恋しくなった。


(2)

「おつかれさまでしたー」 ○月×日、『英語であそぼ ピタパタランド』の最終収録日。 あまりにも素っ気ない最終回だった。 スタッフから花束が手渡され、周りから拍手が起こる。 何にも嬉しくない。 むしろここ半年は、早く終わってくれ、という気持ちのほうが強かった。

楽屋に戻ると、すでにエリックとMAYAの姿はなかった。 そういえば、2人とは最近ほとんど会話を交わしていない。 収録前の台本の読み合わせなど、きわめて事務的なやり取りのみだ。 俺って嫌われてるのかな。 最近はそんなことばかり考えていた。

イグイグが楽屋に入ってくる。 「いやーJBさん今までご苦労様でしたー」 「ああ、うん」 イグイグとは随分長い付き合いになる。 思えば、親友と呼べるのは彼だけかもしれない。 彼もそうとう大変だっただろう。 普段は流暢な日本語を喋れるのに、収録中は「いぐ〜いぐ〜」しか喋れないのだから。 「このあと近くの居酒屋で打ち上げやるらしいですよ。JBさんも行きませんか?」 「へぇそう。あんま行きたくねぇなぁ。」 今日は金曜日。 早く家に帰って健康Q&Aでも見ていたかったが。

居酒屋に入ると、すでに数人のスタッフが酒を交わしていた。 エリックとMAYAの姿はない。 「あ、JBさん遅いですよー。ささ、こちらの席へどうぞ。」 奥の席に座り、さっそく梅昆布茶と餃子を注文した。

今後の人生設計について考えてみる。 4月からのレギュラーは『えいごであそぼ』に声で出演するだけだ。 これまで地道に稼いできたし、金銭的にはそれほど困ることはない。 だが、これまでとは違う『声優』としての自分に、多少の不安は感じていた。

向かいの席では戸田ダリオ氏が1人で酒を飲んでいる。 何故ダリオがここにいるんだろう。 しかも、とだくんの格好。 場の雰囲気を和ませようとでも思ったのだろうか。 しかし誰からも突っ込んでもらえず、寂しそうにしていた。

(続く)
(いや、続かない)